« つかこうへい氏逝く | トップページ | ソブリン・リスク »

2010年7月22日 (木)

狙われる欧州タックスヘブンー北朝鮮資金

個人資産40億㌦?

ジョン・マケイン米上院議員は03年1月、米紙『ウィークリー・スタンダード』で金正日秘密口座の凍結を呼びかけた。金正日の個人口座の存在が国際世論上公になるきっかけの一つだった。マケイン議員は「米国は金正日がタックスヘイブンの銀行口座に隠している個人資産40億㌦を凍結するための国際的取組みを奨励すべきである」と述べた。

06年4月には、クリストファー・ヒル米国務次官補が、金正日の秘密口座の存在を記者会見で示唆する発言もあったが、その後目だった動きはみられなかったという。

北朝鮮の政府予算は「党予算」と「政務院予算」の二重構造になっている。予算額は明らかにされておらず、年間数百億㌦から数千億㌦と、専門家でも意見が分かれている。

党予算は、朝鮮労働党が上げた予算案を金正日が決裁する方式で確定される。政務院予算は国家計画経済委員会が作った予算案を最高人民会議で議決する形で成立する。党予算は政務院予算の1・5倍から2倍だという。

金正日の秘密資金は、党予算の中から金正日が独断的に使う資金と見られている。 党に入る資金はほとんど金正日個人の資金であり、党予算と金正日の個人資金の境界は曖昧だ。

原資は「忠誠の資金」

それでも金正日個人の秘密資金を管理する部署は設けられている。財政経理部傘下の「39号室」だ。北朝鮮の外貨獲得活動は「忠誠外貨稼ぎ」と「群衆外貨稼ぎ」の二つに分けられる。「忠誠外貨稼ぎ事業」こそ、金正日秘密資金のパイプラインだ。

軍高位幹部の脱北者によると、95年当時の金正日の個人資産は2030億㌦。人民武力部をはじめとした党傘下のすべての機関と「外貨稼ぎ会社」が予算の30%を毎年「忠誠の資金」という名目で上納したとインタビューに答えている。

当時テソン貿易総会社(金正日直属の貿易会社)から1億㌦以上、朝鮮統一発展銀行から3000万㌦以上が金正日に渡ったという。「忠誠の資金」は年間約1200㌧収穫されるマツタケと、金販売の収益からも出された。額は双方約1億㌦だったとみられる。「金正日の誕生日(2月16日)ともなれば、平均1億㌦以上、景気が良ければ3億㌦も集めました」と、前出の脱北者は答えている。

 秘密口座の所在地

秘密資金を蓄える口座は当初、銀行の機密保持性が高いところに設けられた。加藤代表はスイスにあったと推測している。

スイスやロシアには金正日が実質的に所有する別荘があり、スイスに住む妹夫婦は、金正日の指示でその別荘を管理していた。三男のキム・ジョンウンが留学していたのもスイスだ。

スイスに秘密口座があったことについては韓国紙も報じている。加藤代表はすでに国外に移されたとみているが、詳細は明らかになっていない。

スイスは、預金者の個人情報保護には他国以上に尊重する姿勢を示していたが、数年前から犯罪収益や独裁者の財産については厳しく管理をしている。

謎のルクセンブルグ往復

スイスは「歓迎されざる資金」として、フィリピンのマルコス、ナイジェリアのサニ・アバチャ、ペルーのブラディミロ・モンテシノスの実名を挙げて拒絶宣言をしている。ただ金正日の場合、ケイマン諸島やルクセンブルク、オーストリアなどでペーパーカンパニーを設立し、その会社名義でプライベートバンクに金を預けていると推測される。

加藤代表はルクセンブルクに注目。スイスで資金管理をしていた北朝鮮の高官がルクセンブルクに何度となく往復していることがその根拠になっている。

同代表は欧州委員会の委員らに北朝鮮の国家犯罪とマネーロンダリング疑惑の存在を訴え、ルクセンブルク政府には調査を求める書簡を発送している。

秘密口座追及の動きに北朝鮮当局は敏感に反応している。追及が外貨獲得の手段である金融取引の停止に発展することを恐れているためだ。

 北朝鮮の反応が顕著に現れたのが、05年9月に米当局のブラックリストに載せられたマカオのBDA口座の凍結だった。凍結された口座は、朝鮮労働党39号室に関ものと見られている。北が金融制裁を受けた2000万㌦の凍結解除にこだわり、6カ国協議に協力的な姿勢を示したのは、BDAを拠点とする金融取引基盤が失われることを恐れたためだ。

 06年4月13日付ワシントン・タイムズによれば、「金正日がスイスの秘密番号口座に置いているとみられる40億㌦について調査を行うのか」と質問されたヒル米国務次官補は、秘密裏に核活動を行おうとする国があれば「その国の財源が吟味されるというのは公平公明なことだろう」と答えた。

 秘密口座の行方を追っている加藤健代表は「ところが、北朝鮮は10日もしないうちにスイス政府に対して秘密口座の調査に応じるよう正式に要請した」と言う。同時にスイスの北朝鮮大使館は「共和国の評価をおとしめる謀略だ」と非難する声明文を韓国の通信社、聯合ニュースに送りつけた。「スイス政府が銀行機密保護を理由に調査に応じないことを見越した上でのスタンドプレーで、北当局のあわてぶりを示すもの」と加藤さんはみる。

 北朝鮮と国交を持つ国が多いEUは昨年1222日の環境相理事会で国連安保理決議1874とは別に独自の対北制裁措置として、金正日の義弟、張成沢国防委員や金英春国防相らを渡航禁止や資産凍結の対象に指定した。外貨を管理する党39号室金東雲室長らも含まれたという。これは、金正日だけでなく北朝鮮の先軍統治グループをEUが制裁の対象として俎上に乗せたことを意味する。

 ファンドの設立

 金正日の海外資金は秘密口座にあるだけではない。英国系のファンドも、鉱山利権などを目当てに資金を集めている。

 英国系ファンド「アングロ‐シノ・キャピタル」は05年9月、5000万㌦規模の「朝鮮(Chosun)開発投資ファンド」を設立した。北朝鮮内の鉱山・エネルギー開発などに投資する同ファンドは翌年5月、1億㌦規模に拡大し、英国の金融当局である金融サービス機構(FSA)から営業認可を取得した。

ファンドの顧問には米国務省で北朝鮮問題を担当していたリン・ターク氏が就任している。ターク氏は、94年に米国初の訪朝団を率いて平壌を訪れた。また同ファンドの投資顧問会社であるコリョ・アジアのコリン・マカスキル会長は、07年2月にBDAに対する米国の金融制裁を解除させた人物だ。

コリョ・アジアは「首領系企業」と外資の決済のため、北朝鮮に本社を持つ大同クレジット銀行を傘下に収め、実質、平壌を租税回避地として、正体を知られたくない投資家を集めているといわれる。英国01年に北朝鮮と国交を回復し、平壌に大使館を開設しており、ロンドンに本拠を構えるヘッジファンド「ファビエン・ピクテ」や「フェニックス・コマーシャル・ベンチャーズ」も北朝鮮での合弁事業を行っている。

彼らが集めた資金は、開発費として使われるだけでなく、開発権を与える金正日への〝袖の下〟という性格もある。こうして金正日は海外に資金を蓄えているのだ。

2010.2.10

« つかこうへい氏逝く | トップページ | ソブリン・リスク »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1365263/35851595

この記事へのトラックバック一覧です: 狙われる欧州タックスヘブンー北朝鮮資金:

» 北朝鮮を追い込め!! [ダントンさんのブログ ]
北朝鮮不法資金は口座調査 スイス方針と報道 2010.7.31 20:28 [続きを読む]

« つかこうへい氏逝く | トップページ | ソブリン・リスク »